事例から紐解く!紙文書の電子化に必要な期間とその要因
大量の文書を電子化することは、省スペース化から情報アクセスの効率化まで、多くのメリットがあります。しかし、自社で行うには手間と時間がかかりますし、専門的な知識や機材も必要となります。そこで多くの企業では、この面倒な電子化作業を専門的に行っている代行企業に委託する方法を選択します。
このようなスキャニングサービスを利用すると、手間が省けるだけでなく、速度や品質面でも安心できることが大きなメリットとなります。しかし、初めてサービスを利用する際には、「電子化の作業は実際にはどれくらいの期間がかかるのだろう?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
当記事では、そのような疑問について、当社で実際に取り扱った導入事例や、公共機関の事例を参照しながら解説します。
目次[非表示]
- 1.電子化にかかる作業期間の計算方法
- 2.作業期間が変動する要因
- 2.1.電子化する文書の形態や種類
- 2.2.電子化する文書のファイリング形態
- 2.3.外部委託先の能力
- 2.4.その他の要因
- 3.導入事例からみる作業期間
- 3.1.当社における事例
- 3.2.公共機関における電子化の事例
- 4.まとめ
電子化にかかる作業期間の計算方法
電子化にかかる作業期間は、
「 全体のスキャン予定量 」÷「 一日にスキャンできる量 」
に基づいて計算することで、おおまかな目安を算出することができます。
例えば、6,000枚入る文書保存箱30箱をスキャニングしようとすると、6,000枚/時間(100枚/分)のスキャンが可能なスキャナーを「1日7.5時間」稼働させた場合、スキャニングに必要な作業日数は
1日に処理できる数量が、45,000枚(6,000枚×7.5h)なので、4日(180,000÷45,000枚)
と計算されます。
これに、ファイルから紙を取り出す、整える(ホッチキスや付箋をはずす)、スキャナーにセットする、スキャニングしたら次の紙をセットする、画像を検査する、ファイル名を付与する、などの作業工数を加えます。
ただし、この計算はすべての作業が順調に進むという前提のものです。機器のトラブル、急な追加作業などの不測の事態は、往々にして発生します。また、希望する仕様によっては、属性情報(リスト)の作成作業や、OCR処理などの付帯業務が発生するため、その期間も考慮する必要があります。
作業期間を考える際には、これらの作業をあらかじめ考慮に入れ、余裕をもっておくことをおすすめします
作業期間が変動する要因
電子化の作業期間は、紙文書の数量以外にも、以下の要因によって大きく変わります。
電子化する文書の形態や種類
電子化する紙文書の形態や種類によっても、作業期間は変動します。
以下の紙文書は、ADFスキャナー(大量の原稿を自動で取り込み、スキャンするスキャナー)が使えません。フラットベッドスキャナー(原稿台に原稿を1枚ずつ手置きしてスキャンするタイプのスキャナー)を使用することになるため、時間がかかります。
- 袋とじされた契約書
- 断裁できない冊子
- 古い文書で劣化や痛みが激しい資料
- 複写紙や和紙などの薄紙の資料
- 大型の図面
- その他、取扱いが複雑な書類など
電子化する文書のファイリング形態
紙文書のファイリング形態によっても、作業期間は変動します。
例えば、クリアポケット型ファイルやクリアファイルに収納されている書類は、1枚ずつ取り出す必要があり、スキャン前の準備に時間がかかります。フラットファイルのような薄いファイルが多数ある場合も、同様に書類の取り外しに時間を要します。さらに、ホッチキスやクリップで固定されている書類、付箋やメモが貼られている書類も取り外す作業が必要となり、これらも時間がかかる要因となります。
外部委託先の能力
外部委託する場合、委託する事業者の処理能力によっても作業期間は変動します。技術力や経験、作業体制(人員数・機材数)など、能力や規模によって処理スピードは異なります。また、使用するスキャナーやソフトウェアの性能、OCR技術の精度などによっても、作業期間が変動する場合があります。
その他の要因
その他、付帯業務の有無によっても作業期間は変動します。
電子化後に書類をファイルへ戻す作業、属性情報(リスト)の作成作業、OCR処理など、スキャニング作業に付帯する業務が多ければ多いほど、作業期間は長期化します。
導入事例からみる作業期間
作業期間は、どうしてもさまざまな要素によって左右されてしまう分、「過去にどのような仕様の文書が、どの程度の期間で電子化されたか」の事例を参考にすることは、期間を予測するうえで非常に有用です。
当社における導入事例と、公共機関における公文書の電子化の事例の2つを紹介します。
当社における事例
特許出願資料の電子化
<仕様>
業種 |
大手自動車メーカーA社様 |
対象文書 |
特許出願資料 |
数量 |
約180万枚(約550箱) |
期間 |
2.5か月 |
<対象文書の特徴>
- メモ書きからA2サイズの図面まで様々なサイズの図面が混在
<作業期間にかかる内容>
サイズが混在しており、ADFスキャナーの他にフラットベッドスキャナーも使用。ファイル名は包袋(封筒)番号で作成し、「リサイズ」などの仕様追加がありました。フラットベッドスキャナーを利用する場合は、ADFスキャナーを利用する場合に比べて手間がかかり、作業期間も長くなります。また、リサイズなどの付帯業務が発生する場合は、その分の作業期間も必要となります。
▶ 当事例の詳細はこちらをご覧ください:自動車メーカー様事例 | 特許出願資料の電子化
BCP(事業継続計画)対応のための文書電子化
<仕様>
業種 |
大手電機メーカーA社様 |
対象文書 |
設計図書 |
数量 |
約600万枚 |
期間 |
24か月 |
<対象文書の特徴>
設計図書(設計図面、仕様書、その他関係書類など)
外部への持ち出しができない重要文書
日常で頻繁に使用
<作業期間にかかる内容>
電子化対象の文書が「約600万枚」という膨大な数量あったことが挙げられます。これだけの数の文書を電子化するとなると、期間もそれなりに長期を見積もらなければなりません。
本事例は、外部への持ち出しができない重要文書であることや日常で頻繁に使用する文書であることも踏まえ、オンサイト(お客さま社内でスキャニングを実施するサービス)にて実施しました。そのため、お客さま社内に作業現場を設置するなどの準備期間も要しました。
▶ 当事例の詳細はこちらをご覧ください:大手電機メーカー様事例 | BCP(事業継続計画) 対応のための文書電子化
住宅ローン契約書類の電子化
<仕様>
業種 |
保証会社A社様 |
対象文書 |
住宅ローン契約関連書類 |
数量 |
約7万頁/年 |
期間 |
2か月 |
<対象文書の特徴>
- A4、大型の資料、図面、変形サイズなどサイズ混在
大型の資料は断裁負荷
貼付や折り込みあり
<作業期間にかかる内容>
作業時間がかかる要素として、以下の作業がありました。
- 付箋外し、折れ伸ばしなど前整理の作業を実施
- 契約者データベースと照合し、資料の棚卸しを実施
- 写真のみカラースキャン
- お客さまの文書管理システムに、ルールに従い登録
- 当社センターに持ち出してスキャニングしている資料について、必要に応じてお取り寄せができるよう対応
- 金庫にて保管されており、持ち出しできない一部の機密書類は、オンサイトで作業を実施
「オンサイト」とは、お客さま社内に人材・機材を持ち込んでスキャニングを行う方法です。お客さま社内に作業場所を設置するため、作業環境を準備するための時間が必要となります。本案件は作業の仕様が複雑で、対象文書の状態にも課題が複数あったため、作業の全体を通じて時間を要しました。
▶ 当事例の詳細はこちらをご覧ください:保証会社様事例 | 住宅ローン契約関連資料の電子化
人事書類の電子化
<仕様>
業種 |
大手食品メーカーA社様
|
対象文書 |
雇用契約書、誓約書、履歴書、雇用時健康診断書 ほか |
数量 |
約3万枚 |
期間 |
3か月 |
<対象文書の特徴>
多種多様な種類の書類が混在
<作業期間にかかる内容>
お客さまが保有するリストと照合しながらの資料棚卸、ファイル名への社員番号などの付与、電子化後、執務室へ返却する書類と倉庫保管する書類の仕分けなど、複数の付帯業務を行いました。
一般に、スキャニング作業に付帯するその他の作業が多くなればなるほど作業期間は長期化します。
▶ 当事例の詳細はこちらをご覧ください:大手食品メーカー様事例 | 人事書類の電子化
工事報告書類の電子化
<仕様>
業種 |
建設会社A社様
|
対象文書 |
工事報告書類 図面および一般文書 |
数量 |
約8万枚 |
期間 |
2か月 |
<対象文書の特徴>
- A4~A0までの工事報告書類に加え、図面、一般文書と複数の様式の資料が混在
古い書類あり
<作業期間にかかる内容>
ファイル名の付与に、特に時間がかかっています。
ファイル名の付与は、ファイル単位が小さく、ファイル名を付与する数が多ければ多いほど時間がかかります。本案件では、一般文書のファイル名はインデックス紙単位で付与し、図面のファイル名は1図面ずつ図面番号を付与するという非常に細かな単位であったため、作業時間が多くかかりました。
その他、OCR処理、電子化後の廃棄処理など、複数の付帯業務を行いました。
▶ 当事例の詳細はこちらをご覧ください:建設会社様事例 | 工事報告書類の電子化
完成図書の電子化
<仕様>
業種 |
機械製造業A社様
|
対象文書 |
製品の図面や仕様、検査や点検の履歴に関する書類 |
数量 |
約20万頁 |
期間 |
3か月 |
<対象文書の特徴>
図面、一般文書と複数の様式の資料が混在
<作業期間にかかる内容>
電子化したデータのフォルダ単位やファイル単位、フォルダ階層、ファイル名などを、お客様のルールに則して付与しました。階層やファイル単位、フォルダ単位を細かく分ける場合は、その分の作業期間が必要となります。
▶ 当事例の詳細はこちらをご覧ください:機械製造業事例 | 完成図書の電子化
特許出願書類の電子化
<仕様>
業種 |
士業・法律事務所A社様 |
対象文書 |
各国の特許庁に対する特許出願に関する書類 |
数量 |
約80万頁 |
期間 |
4か月 |
<対象文書の特徴>
- 主にA4・A3サイズの書類
<作業期間にかかる内容>
ADFスキャナーを使用することが可能であったこと、その他の仕様も比較的シンプルであったことなどから、約80万ページを4か月という比較的短期間での電子化が可能となりました。
▶ 当事例の詳細はこちらをご覧ください:士業・法律事務所様事例 | 特許出願に関する書類の電子化
公共機関における電子化の事例
A市
<仕様>
数量 |
約80万枚 |
期間 |
約4か月(スキャニング作業のみの期間) |
対象文書 |
|
電子化の仕様 |
|
その他 |
オンサイトでの作業(A市市役所内にて作業) |
<作業期間にかかる内容>
A3からA5まで、サイズが混在しています。付箋やホッチキス、のりづけなどはなし、とのことからADFスキャナーを使用できる可能性があります。
また、本事例は作業期間と数量があらかじめ決まっている事例です。数量が多く、「OCR処理」を行う必要はありますが、それ以外の仕様は比較的シンプルです。
B市
<仕様>
数量 |
約250万頁(A4換算) |
期間 |
約5か月 |
対象文書 |
|
電子化の仕様 |
|
その他 |
スキャン後、ファイルボックス、紙フォルダに同じ順に戻して復元 |
<作業期間にかかる内容>
作業時間がかかる要素として、以下のものが考えられます。
- A4換算で250万ページ想定と、数量の多さが目立つ
- 電子化の作業開始前に、ファイルメーターなどの現場調査の実施、文書のリスト作成を行う必要がある
- 記載のある付箋は余白に貼付し直し、スキャンを行う
- OCR処理が必要
- スキャン後に復元作業を行う必要があり、後整理に時間がかかる
他にも、対象資料の紙の種類やサイズが混在している場合には、さらに時間がかかることになります。
まとめ
文書を電子化する際にかかる期間は、「全体のスキャン予定量」 ÷「一日にスキャンできる量」でおおよそを求めることができます。しかし、これは全ての作業が順調に進む前提のものであり、実際には機器のトラブルや原稿の状態、仕様など、様々な要因によって作業時間はいかようにも変動します。
作業期間を左右する主な要因には、文書の形態や種類、ファイリング形態、作業仕様、付帯業務の有無、委託先の能力などがあります。特に文書の種類や形態によっては手間がかさみ、作業の時間がかかることが多いものです。他社の導入事例などから、おおまかなスケジュール感を確認してみましょう。
より具体的な予測や計画を立てる際には、信頼できる業者に相談してみることをおすすめします。