書類の電子化:価格だけでは見えない“品質”の大切さ
コロナ禍におけるテレワークとデジタルトランスフォーメーション(DX)の進行に伴って、近年、書類の電子化サービスが増加しています。これは、業務効率化や情報共有のためのペーパーレス化が求められる背景によるものです。
しかし、この電子化サービスを選択する際、価格だけを重視して選んでしまうと思わぬ落とし穴に陥ることがあります。料金が安い電子化サービスは、品質に欠ける場合があるからです。ミスが多ければ、やり直しの指示を出したり、やり直したデータの再検収をしたりと手間がかかってしまいます。特に、大量の書類を電子化する場合、全てをしっかりと検収することはなかなかできません。検収しきれずに問題が見逃され、後からそれが発覚した場合、問題のあった書類を再度スキャンする必要があります。
品質を欠いたデータは、検収にかかる手間、補修作業のための追加コストや時間など、多くの損失を生んでしまいます。
したがって、書類の電子化を進める際には、価格だけでなく、サービスの品質をしっかりと見極めることが重要となります。
本記事では、書類の電子化作業における「品質」について、詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.電子化作業における品質とは?
- 2.作業品質が低いとどのような問題が起きるのか?
- 3.データの品質はどのように管理され、担保されるか
- 4.どうやって代行会社の品質を見極めるか
- 4.1.事前サンプルテスト
- 4.2.参考事例・実績の確認
- 4.3.品質管理体制の確認
- 4.4.代行会社の技術力や機器の確認
- 4.5.見積仕様書の作成
- 5.まとめ
電子化作業における品質とは?
電子化作業における品質
最初に、電子化の品質にかかわる要素についてご紹介します。
スキャンの品質には、画像品質、ファイル名やフォルダ名とフォルダ構成、ファイルの完全性の3点が重要な要素としてかかわっています。
画像品質
スキャン時には、ごみや原稿の折り目などによる影の映り込み、画像の歪みやかすれなど、本来必要ではない要素がデータに含まれてしまうことがあります。特に、ごみや原稿の折れ角が文字に重なり映り込んでしまうと、データの判読ができなくなってしまいます。そのため、これらのノイズをいかに除去できるかどうかが、画像品質に直結します。
また、スキャン時には色情報の取り扱いも重要な要素となります。例えば、カラーの写真やグラフをモノクロで電子化してしまうと、黒だけでは表現しきれない情報が欠落し、本来の内容が伝わらない、不鮮明なデータとなってしまいます。多くのスキャナーにはモノクロ・カラーを自動で判別する機能が搭載されていますが、この機能が使用できない場合や、機能による判別が不適切な場合、人の目による判別が必要となります。しかし、そのような手作業の工程では、ヒューマンエラーが発生しやすいという問題があります。そのため、スキャンの作業プロセスにおいて、ヒューマンエラーによるミスを抑制するための手段やノウハウをしっかりと持っているかどうかが、画像品質においては重要となります。
ファイル名やフォルダ名の付与、フォルダ構成
スキャンしたデータを保存する際、ファイル名の付け間違いや、保存先のフォルダ間違いが発生してしまうことがあります。ファイル名、フォルダ名、フォルダ構成の3点はデータの所在をあらわす要素であるため、これらが正確でない場合はデータをすばやく探し出すことが困難になります。検索性に欠けるデータは、たとえどれほど画像品質に優れたものであっても、活用価値が著しく低下してしまいます。
これらの状況を避けるためには、「ファイル名、フォルダ名が仕様どおりに付与されている」「フォルダが仕様どおりに構成されている」ことが重要です。電子化したデータを最大限に活用するため、ファイル名、フォルダ名、フォルダ構成の3点をしっかりと確認しましょう。
ファイルの完全性
スキャン作業において、一部のページのスキャンがもれてしまったり、ファイルが途中で破損してしまったりする場合もあります。電子化後に原稿を廃棄する場合、完全性に欠けるデータは業務を遂行するうえで大きな問題となります。全ページが正確にスキャンされていることや、ファイルが破損していないことなどは、電子化作業の品質を担保するうえで重要な要素となります。また、これらの問題が発生しうる過程には、スキャナー等の誤作動やヒューマンエラーが発生しやすい工程も含まれます。そのため、ミスを早期に確認・発見するためのチェック体制が整っているかどうかも、あわせて確認するとよいでしょう。
スキャナーの技術は進んでいるのに、なぜミスが起きるのか
スキャナーの技術の進化により、画像品質は一定のレベルを保証することができるようになりました。それにもかかわらずなぜミスが発生してしまうのでしょうか?それは、手作業の工程で発生するヒューマンエラーが、いまだ完全には避けられないからです。
例えば、一般的なADF(自動原稿送り装置)付きスキャナーは、紙の重送を防止するための「超音波重送検知機能」が搭載されており、原稿が2枚重なって送られるという事態は理論上では発生しません。しかしながら、エラーが起こったときの対応が問題となります。もし重送検知でエラーが発生した場合、すでに送られた紙を戻し、再び紙をスキャンするという工程が発生しますが、これは作業者が手動で行います。こういった手作業を伴う工程では、特にスキャンもれなどのミスが発生しやすいのです。「ジャムり(機器内部での紙詰まり)」などが発生した場合も同様に作業者の手作業が必要になるため、ヒューマンエラーが発生する可能性を含みます。
「紙文書の電子化」という一連の作業の中には、単にスキャナーでページを読み取るだけではなく、さまざまな手作業の工程が存在します。その手作業の中でヒューマンエラーが発生する可能性があり、それがミスにつながってしまうのです。
作業品質が低いとどのような問題が起きるのか?
電子化作業における品質の低下は、さまざまな問題を引き起こします。その中でも特に発生頻度が高いのは、作業もれ(スキャンもれ)や、ファイル名やフォルダ名が仕様に従っていないという事例です。これらの問題が発生した具体的な事例についてご紹介します。
ファイル名やフォルダ構成が仕様どおりになっていない
ある企業では、電子化の作業を代行会社に委託すると決定した際、価格の安い代行会社に依頼しました。しかし、納品されたファイルのフォルダ構成が仕様どおりに作成されていない事象が多数発生。またファイル名の誤入力も多く、必要な資料を探すための時間が増大し、業務効率が著しく低下する事態になりました。また、検収期間で見つけられなかった誤りについては、結局、内部で修正し直さなければなりませんでした。
作業もれ(スキャンもれ)がある
別の企業でも、オフィス文書を電子化するプロジェクトの進行中でした。相見積もりで選定した代行会社に依頼していましたが、スキャンのもれが多発。電子化されていない書類は原本に戻って確認することとなり、業務の進行に遅れが生じました。その結果、新規に作成される書類の電子化は、より信頼性のある代行会社に委託されることとなりました。
どちらの事例も、電子化作業の品質の低さによって引き起こされた問題が実際の業務に影響を与えています。また、今回ご紹介した2つの事例ではどちらも原本として紙文書を残していたため、後から復元することが可能でしたが、電子化後に紙文書を廃棄する場合は、復元もできなくなってしまいます。電子化されたデータの品質の低さは、起きた問題への対応やデータの運用上において手間がかかるだけでなく、文書を元どおりに復元できなくなるリスクもあると認識しておく必要があるでしょう。
データの品質はどのように管理され、担保されるか
スキャンデータの品質管理を行うために、代行会社によっては以下のような対策がとられています。
品質管理体制の構築
依頼内容や作業仕様に従い、品質を管理するための体制が構築されます。リスクの洗い出しや対策の考案なども行われます。
画像検査
スキャンデータに対し、画像検査が行われます。画像欠損、向き・傾き、濃度、ごみおよびしわ、すじ、色再現性などを検査するものです。
突合検査
スキャンデータに対し、突合検査が行われます。原本と画像を照合し、スキャンもれがないかを確認するものです。
品質検査
納品データに対し、品質検査が行われます。仕様どおりの品質になっているか、設定された品質基準に対してデータが適合しているかを確認するものです。
品質検査では、以下のような内容で検査されます。
- 解像度、ファイル形式、圧縮形式の相違
- ファイル破損の有無
- 作成したファイル数、ページ数、レコード数が、納品媒体に格納した各数量と一致するか(確実に納品媒体に格納しているか)
- メディアの傷など、媒体の品質にエラーはないか
- ウイルスに感染していないか(ウイルスチェック)
これらのような項目を通じて、スキャンデータの品質管理が適切に行われ、その品質が担保されます。
どうやって代行会社の品質を見極めるか
スキャニングサービスを提供している代行会社を選定する際、様々なアピールに惑わされてしまいがちです。各社のホームページなどを確認してみると、ほとんどの代行会社が「当社が作成するデータの品質は問題ありません!高品質です!」とうたっています。しかしながら、いざ委託してみると品質面での問題が発生し、結果として満足のいかないデータになってしまうかもしれません。その結果、代行会社を選び直す手間が発生したり、業務に支障をきたしてしまったりすることも考えられます。こうした不本意な事態を防ぐためには、ポイントを押さえた確認や保証手段を活用して品質の高い事業者を選定し、リスクを低減することが必要です。選定時に確認したいポイントについては、具体的には以下の6つが挙げられます。
事前サンプルテスト
検討中の代行会社数社に対して、同じ文書を、同じ条件で提供し、実際にスキャニングを依頼してみましょう。提供されたサンプルの品質を比較評価することで、最適な事業者を選ぶことができます。
参考事例・実績の確認
過去の実績や取り組んだ案件について、代行会社に問い合わせてみるのもおすすめです。可能であれば、過去のクライアントとの取引での成功事例や失敗事例を具体的に説明してもらうとなおよいでしょう。
品質管理体制の確認
品質を管理する体制が整っているか、検査はどのように行っているかについても確認すると良いでしょう。ヒューマンエラーによるミスは、どのような代行会社でも必ず発生し得る事象です。そのため、ミスを早期に発見、または予防するための管理体制や検査方法が確立されていることは、品質を担保するうえで非常に重要です。加えて、万が一問題が発生した場合に備え、アフターサポートについても確認しておくと安心です。
また、資格の有無についても確認しましょう。有資格者が在籍していたり、ISMS認証などを取得していたりする場合、それも品質の管理体制を証明する一助となります。例えば、文書管理のプロフェッショナルであることを示す資格としては「文書情報管理士」の資格が、品質に関するISMS認証には「ISO9001」や「ISO/IEC27001」が該当します。これらの資格を所有している企業であれば、一定水準の品質を期待できるでしょう。
代行会社の技術力や機器の確認
使用しているスキャナーやソフトウェアの種類、購入時期、メンテナンスの頻度なども確認しましょう。機器の品質はスキャン結果に大きく影響します。最新の技術や機器を使用している代行会社は、その分高い品質を保持する可能性が高いです。
見積仕様書の作成
品質に関する要件を詳細に伝え、相互で明確にするために、見積仕様書を作成してもらうことも有効です。具体的な解像度やファイル形式、フォルダの構造など、希望する要件をしっかりと伝達します。仕様書に記載される情報は、代行会社の技術力などを評価するのに役立ちます。
社外秘の重要文書の電子化の委託を検討されている方にはこちらの記事がおすすめです。
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まとめ
電子化されたデータの価値は、電子化作業における品質によって大きく左右されます。
スキャンの品質は画像品質、ファイル名やフォルダ名とフォルダ構成、ファイルの完全性の3点が重要であり、これらが適切に行われる事で高品質な電子化データを得ることができます。しかしながら、ヒューマンエラーなどにより品質が低下すると、様々な問題が発生します。そのため、事前のサンプルテストや、実績、技術力、品質管理体制などの確認をしっかりと行い、信頼性の高い代行会社を選ぶことが求められます。
代行会社の選定時には、価格のみを重視するのではなく、品質も考慮することが大切です。
以下の記事では、スキャニング代行会社で紙の書類から電子データへと変換されるまでの一連の流れを詳しく解説しています。ぜひご一読ください。