マイクロフィルムの電子化で検索効率を劇的に向上させる方法
昭和20年代から利用されてきたマイクロフィルムは、その保存性、法的証拠能力、省スペース性により、企業や公的機関で重宝されてきました。しかし、近年、多くの組織がマイクロフィルムの保存や活用に関する新たな課題に直面しています。特にマイクロフィルムの劣化や、迅速な情報検索の困難さは、現代のビジネス環境において大きな障壁となっています。また、マイクロフィルムリーダーの老朽化や保守の難しさも課題として浮き彫りになってきています。
さらに、デジタル社会への移行が加速する中、情報の電子化は避けて通れない課題となっています。そのため、マイクロフィルムを電子化することで、情報管理の効率化や検索速度の向上といった多くのメリットが期待されています。
本記事では、マイクロフィルム運用の課題、電子化のメリット、具体的な成功事例、電子化の手順や注意点について詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.マイクロフィルムによる運用の課題
- 1.1.マイクロフィルム市場の縮小
- 2.電子化の具体的なメリット
- 3.企業の成功事例
- 4.電子化の手順と見積もり依頼の方法
- 4.1.電子化作業の手順
- 4.2.スムーズな見積もり依頼に向けて明確にしておきたい項目
- 5.マイクロフィルム電子化の注意点
- 5.1.電子化仕様の選択
- 5.2.コマ数や画像数の確認
- 5.3.劣化したマイクロフィルムの対処
- 5.4.マイクロフィルム機材の廃止リスク
- 6.マイクロフィルム電子化によるデータ活用術
- 6.1.製造履歴データの分析と予測
- 6.2.取引記録や問合せ履歴の分析とサービス・製品改良
- 7.まとめ
マイクロフィルムによる運用の課題
次のような課題が、マイクロフィルムの運用において挙げられます。
利用する際の課題
- 検索の不便さ
マイクロフィルムの文書を検索するには、該当するフィルムを探し、取り出してから、コマの並び順や、ターゲット、コマ位置、インデックス情報などを手がかりに検索する必要があります。また、台帳を用いる場合は、必要な情報を見つけるために、追加の工程が必要です。そのため情報検索においてマイクロフィルムは電子データと比べて不便で、時間がかかります。
-
劣化のリスク
マイクロフィルムは長期保存に適した媒体ですが、適切な保存環境が保たれていないと劣化してしまいます。劣化が進むと、酢酸臭がしたり、フィルムがベタついたり変色したりします。既に劣化したフィルムを元の状態に戻すことはできないため、マイクロフィルムの情報を引き続き利用するには、電子化や保護措置が必要です。
- 閲覧の物理的な制約
マイクロフィルムは専用の機器がないと閲覧しにくいため、閲覧には物理的な制約があります。保管場所に足を運び、マイクロフィルムを取り出して、専用機器で操作する必要があります。特に、シート状やカード状のマイクロフィルムは、持ち出し時の紛失リスクにも注意が必要です。
マイクロフィルム市場の縮小
マイクロフィルムの材料を製造するメーカーは減少しており、アナログ方式のマイクロフィルムリーダーも製造が終了しています。また、撮影機器および現像機などの保守も終了しつつあり、これらを取り扱うベンダーが減少しています。さらに、マイクロフィルムの電子化機器の市場も縮小傾向にあるため、注意が必要です。
電子化の具体的なメリット
マイクロフィルムの課題を解決するためには、電子化による運用が有効です。以下に、その具体的なメリットを挙げます。
検索性の向上
電子化により、ファイル名検索やフォルダの階層から検索が可能になり、必要な情報を効率的に探せるようになります。これにより、マイクロフィルムと比べて検索の手間が大幅に減り、目的の資料が簡単に見つかります。
利便性
電子化されたデータは、自席のPCで簡単に閲覧できるため、保管・閲覧場所に出向く必要がなくなります。そのため、テレワークやリモートワークでも資料が活用でき、ネットワークを介した情報共有も容易になります。その結果、業務効率が向上します。
コスト削減
電子化によって、専用機器やマイクロフィルムの保管場所にかかる維持コストを大幅に削減できます。マイクロフィルムの長期保存には、JIS Z6009:1994に規定された下表のような厳しい環境条件が求められます。
<フィルムの保存に適した相対湿度及び温度の条件>
保存条件 |
相対湿度 |
温度 |
||
最高 |
最低 |
最高 |
||
セルロースエステル |
ポリエステル |
|||
中期保存条件 |
60% |
15% |
30% |
25℃(注釈参照) |
永久保存条件 |
40% |
15% |
30% |
21℃ |
注釈:理想的には、温度は長期間にわたって 25℃を超えてはならず、20℃より低い温度が望ましい。
短期的なピーク温度は 32℃を超えてはならない。
備考:1.この湿度及び温度の条件は、1 日 24 時間維持しなければならない。
2.セルロースエステル(TAC)及びポリエステル(PET)のフィルムを同一の場所で保存する場合、永久保存での推奨される相対湿度は 30%である。
*出典:国立国会図書館「マイクロフィルム保存のための基礎知識https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/pdf/microfilm2019.pdf
このような保存環境を24時間365日維持するためには、空調設備が必須であり、これが維持コストを増大させます。しかし、電子化により、これらの厳格な保存環境が不要となるため、空調や保管設備のコスト削減が可能です。さらに、スペースの有効活用や施設管理の負担も軽減されます。
保全と劣化対策
電子化は、マイクロフィルムの物理的な管理に伴うリスクを大幅に軽減します。特に、シート状やカード状のフィルムはキャビネットに大量に保管されている場合、紛失が発生しやすく、1枚や2枚がなくなっても気付かれにくいという問題があります。しかし、電子化することで、このような紛失リスクを完全に回避できます。
また、劣化が心配される資料も、電子化によってそのままの状態で保存でき、利用による物理的な摩耗も防げます。たとえ利用頻度が低くても保管環境が悪ければ、フィルムが湿気と反応して酢酸ガスを発生させ、そのガスが容器やキャビネット内に充満することで劣化が進行するリスクがあります。しかし、電子化により、このような劣化による情報喪失のリスクを大幅に抑制できます。
セキュリティ強化
電子データは閲覧権限を制限でき、ファイルにパスワードを設定することでアクセスを管理できます。これにより、特定の部署のみが資料にアクセスできるようになり、セキュリティが向上します。
分散管理の容易性
マイクロフィルムは複製を作成して分散保管することが可能ですが、保管先の温度や湿度などの環境整備が必要です。一方、電子データ化すれば、バックアップの作成や分散管理が容易になり、保管環境に左右されることなく安全にデータを保存できます。これにより災害や事故によるデータ消失のリスクを大幅に軽減できます。
企業の成功事例
公的機関では土地資産の記録や、会議記録、設計図書、地域資料などの公文書をマイクロフィルムで保管し、これを電子化しています。民間企業でもさまざまなマイクロフィルム文書を電子化しています。
ここでは、当社のお客さまがマイクロフィルムを電子化して業務課題を解決した事例をご紹介します。
図面や技術文書の検索が迅速かつ容易になり、業務効率が向上
A社様:顧客からの問い合わせや再受注の際に、過去に納品した製品の図面や技術文書を参照していましたが、マイクロフィルムで管理されていたこれらの文書の検索には手間と時間がかかっていました。
そこで、これらのマイクロフィルム文書を電子化することで、図面や技術文書の検索が迅速かつ容易になり、業務効率が向上しました。また、PC画面上で過去の資料と比較できるようになったことで、再受注に伴う流用設計も円滑に行えるようになりました。
詳しくは以下のリンクをご覧ください。
倉庫発掘の効率化:設計図書の検索と共有を迅速化し業務効率を向上
B社様:修繕工事などで過去の図面や計算書、設計記録などを閲覧する際、倉庫からの取り寄せや担当事業所への輸送に多くの時間と労力がかかっていました。そこで、これらの資料を倉庫から取り寄せ、ネットワークを介してASPサーバーにアップロードする作業を含め、当社に電子化を委託しました。その結果、情報連携が容易になり、資料の共有が手間なく行えるようになりました。
詳しくは以下のリンクをご覧ください。
►総合建設会社A社様 倉庫で保管している紙・マイクロフィルムのオンデマンド電子化
使用時の紛失リスクを軽減
C社様:過去の履歴をCOMで確認していましたが、閲覧のために持ち歩く際に紛失のリスクがありました。COMを電子化して、共用ストレージに格納することで、持ち歩く必要がなくなり、ネットワークを介して安全に閲覧できるようになりました。
これらの事例は、マイクロフィルムの電子化が、業務効率の向上、情報共有の促進、そして紛失リスクの抑制といった課題の解決に貢献することを示しています。
電子化の手順と見積もり依頼の方法
見積りを依頼するにあたり、まずは当社の作業の流れをご紹介し、どのように電子化が進むのかを簡単に説明します。
電子化作業の手順
マイクロフィルムの電子化は、一例として以下の手順で進められます。
- 電子化前のフィルム確認
フィルムの撮影仕様(縮率、モード)や状態(劣化や接合の有無)を確認します。
必要に応じて、フィルムの補修(テープ補修)や清掃などの前作業を行う場合もあります。 -
電子化
マイクロフィルム専用のスキャナーを使用して、フィルム全体を読み取り、コマ単位等で画像を切り出します。 - 電子化後の検査
画像にスキャニングによって生じた欠けや曲がり、汚れがないか、ピントが合っているか、正しく拡大・切り出されているかなどを確認します。また、不要なコマ(白紙ページやターゲットなど)の削除や、ファイルフォーマット、階調、解像度、倍率が正しいかどうかの確認も行います。 - インデックス作成
必要に応じてファイル名や属性性情報を入力し、検索性を高めます。 - フォルダ構成・ファイル形式整形
指定されたフォルダ構成やファイル形式にしたがって、ターゲットやフィルム等の単位でファイルを作成します。 - 納品・返却(メディアに格納orアップロード)
完成したデータは、HDDやDVDなどのメディアに格納して納品するか、クラウド上にアップロードして納品し、お預かりした状態に戻してマイクロフィルムの返却を行います。
オプションで必要に応じてマイクロフィルムの廃棄を行うケースもあります。
このような作業手順で進めるため、外部委託を検討する際には、見積依頼の前に、以下の要件を確認しましょう。
スムーズな見積もり依頼に向けて明確にしておきたい項目
代行会社では見積もりを提示するにあたり、以下の要件に基づいて算出するため、これらの事を明確にしておくとスムーズに進められます。
① フィルムに収納されている文書の種類
② フィルムの種類
③ 数量(枚数・本数・コマ数)
④ ご希望のファイル形式
⑤ ご希望の納期
⑥ 業務上どのようにマイクロフィルムを検索・使用されているか
⑦ 管理台帳の有無(「あり」の場合、台帳に記載されている項目)
③の数量は、概算見積の場合は、おおよその数量で問題ありません。しかし、最終的なコストやデータ容量を正確に把握するためには、コマ数を正確に確認することが重要です(詳細はこちらをご覧ください)。コマ数の誤りはコストに影響を与える可能性があるため、事前に正確な情報を提供しておくことで、認識の相違を避け、予算内に費用を調整しやすくなります。
また、⑥を確認することで、電子化後に使いやすいファイル名やフォルダ構成やデータ仕様(階調、解像度)が決められます。
⑦は、マイクロフィルムの管理台帳がある場合、その情報をファイル名やフォルダ作成に活用できるか否かで費用が変わることがあります。
もし予算の都合で一度にすべてのマイクロフィルムを電子化することが難しい場合には、対象を絞り込むことも検討できます。優先順位を決めるために、劣化検査を依頼したり、劣化が進まないように保存性の高い容器に詰め替えたりしてもらうことも可能です。
当社の場合、見積もり依頼を受けた後の流れとして、まず現地調査とヒアリングを行い、それに基づいて提案書とお見積もりを作成します。ご発注いただいた後は、マイクロフィルムを引き取り、ご希望に応じてデータを媒体でお届けするか、ご指定のストレージにアップロードして納品します。
マイクロフィルム電子化の注意点
次に、マイクロフィルムの電子化する際の注意点についてご紹介します。
電子化仕様の選択
-
階調の設定(細かい濃淡の色合いを残すかはっきりとした白黒だけにするか)
劣化が進んでいるフィルムや、写真や地図などの細かい線や破線がある被写体では、モノクロ画像だと見づらくなることがあります。実際、マイクロフィルムリーダーでは確認できるものが、PDF化した際に見えなくなる場合があります。このような場合、モノクロとグレースケールの両方でサンプルを作成し、画質を比較することをおすすめします。 -
コマ余白の考え方(被写体の周りに残るコマ余白を取り除くかどうか)
紙を手置きで撮影したマイクロフィルムには電子化後の画像の外側にコマ余白が入ります。電子化後の画像にコマ余白を残したくない場合は、画像の切り出し作業を依頼する必要があります。ただし切り出し作業は機械的かつ垂直に行われるため、被写体が傾いて撮影されている場合には対応が困難です。また、画像を原寸大に戻したい場合にも、マイクロフィルムの撮影機器や電子化機器の誤差により、完全に原寸大には戻らないことがあります。
コマ数や画像数の確認
ロールフィルムやシート状フィルムは、撮影方法によって、1フィルムに収録されるコマ数が大きく異なります。
そのため、コマ単価で総コストを算出したり、データ容量を見積もったりする際には、1フィルムあたりの正確なコマ数を把握することが重要です。コマ数の想定が誤っていると、総コマ数に大きなズレが生じ、積算結果に誤りが出る可能性があるため特に注意が必要です。
撮影された書類の種類、発注担当部署、撮影時期、あるいは統合された企業から引き継いだフィルムなど、撮影の条件が異なる単位ごとに、収録コマ数に変動が生じていないか、適宜確認するとよいでしょう。
さらに、ロールフィルムがデュープレックスモードで撮影されている場合、1コマに被写体の表裏が収められています。これを表裏別々に保存する場合、画像数がコマ数の2倍になります。
コマ単価だけでなく、本単価やシート単価で計算される場合もあります。また、コマ数が想定より増加した場合には、追加費用が発生する可能性がありますが、事前に正確な情報を提供することで、予算内に費用を調整しやすくなります。シート数を伝えたつもりがコマ数として誤解されるなど、認識の相違が生じないよう、注意が必要です。
劣化したマイクロフィルムの対処
劣化が激しいマイクロフィルムは電子化できない場合があります。そのため、劣化が進む前に早めの電子化が必要です。また、劣化フィルムや状態不良のフィルムは、電子化作業中に破損するリスクがあるため、作業前にテープ補修などの対策が講じられることがあります。
マイクロフィルム機材の廃止リスク
マイクロフィルムリーダーや機材のサポートを扱うベンダーが事業を撤退することで、今後必要な機器やサービスが手に入りにくくなる可能性があります。閲覧用の機器(マイクロフィルムリーダー)や電子化用の機器(スキャナー)が利用可能なうちに電子化を進めるべきです。
過去に作成されたマイクロフィルムは大きさや仕様がさまざまであるため、スキャニング機種によっては対応できない場合もあります。そのため、電子化を依頼する際は、代行会社に事前に対応可能か確認することが重要です。また、仕様や納品データの保存先ストレージの容量など、費用に影響する要素については、費用対効果を考慮して決定する必要があります。
マイクロフィルム電子化によるデータ活用術
マイクロフィルム文書を電子化することで、以下のような活用が可能になります。
マイクロフィルム文書を電子化することで、文書に含まれる情報をさらに有効的に活用できます。
製造履歴データの分析と予測
マイクロフィルム文書から抽出した過去の業務データを分析することで、トレンドやパターンを見つけることができます。例えばAI機械学習を活用したパターン認識により、電子化された図面データを機械学習モデルに入力し、有用な設計パターンやベストプラクティスを抽出できます。これにより、過去の設計情報を基にした、新たな設計がより効率的に行えるようになります。
また、製造業では、製造履歴データを分析することで、製品の欠陥や不良率の傾向を予測し、予防措置を講じるためのデータとして活用できます。
取引記録や問合せ履歴の分析とサービス・製品改良
過去の顧客取引記録や問い合わせ履歴を電子化し、顧客の行動パターンやニーズを分析することができます。例えば、金融機関では、取引履歴を基に顧客の投資傾向を分析し、個別に最適化された投資提案を行うことが可能です。
以上のように、マイクロフィルムから電子化されたデータを効果的に活用することで、業務の効率化や新たな価値創出が期待できます。
まとめ
この記事では、マイクロフィルム運用の課題に対する解決策として、マイクロフィルムの電子化について詳しく解説しました。マイクロフィルムには検索性や保管における不便さ、市場の縮小に伴うリスクなどの課題があります。これに対し、電子化がもたらす業務効率の向上、コスト削減、保全や劣化対策、セキュリティ強化といったメリットを紹介しました。また、実際に電子化を成功させた企業の事例を通じて、具体的な効果を示しました。
さらに、見積りを依頼するにあたり、当社の作業の流れや、明確にしておきたい項目、考慮すべきポイントについてもお伝えしました。最後に、電子化されたデータを活用することで、さらなる効果を期待できる点にもふれています。
マイクロフィルムの電子化は、業務の効率化だけでなく、将来に向けたデータ資産の保護と活用にもつながります。
本記事が、皆さまが持つ問題解決の一助となり、情報管理の効率化に貢献できれば幸いです。