PDF化で止まっていませんか?電子化データを業務で活かす5つの活用法と落とし穴

多くの企業が「紙を減らす」という目標のもと、書類の電子化に着手しています。書類の電子化は、スペースセービングのみならず業務の効率化にも寄与する重要なステップです。しかし、実際には「保管のための電子化」で止まってしまっているというケースが多く見受けられます。例えば、デジタルで作成された文書をいったん紙に印刷して保管し、それをさらにスキャンしてPDF化する、といったパターンもその一つです。このような場合では、電子データの本来の利点が活かされず、業務改善やDXにもつながりません。
この問題を解決するためには、「書類の電子化」のステップで留まることなく、その先の「活用フェーズ」へと進むことが不可欠です。
本記事では、電子化した文書を業務でどう活かすか、その方法と注意点を紹介します。
目次[非表示]
- 1. デジタルで作成された文書が「紙に戻ってしまう」のはなぜ?
- 1.1.理由1: 押印・署名文化
- 1.2.理由2: 法令・監査による要求
- 1.3.理由3: システム未整備
- 1.4.理由4: 心理的要因
- 2. 紙で運用されがちな文書の例
- 3. 電子化したデータの5つの活用法
- 3.1.活用事例1:ナレッジとしての活用
- 3.2.活用事例2:顧客対応の迅速化
- 3.3.活用事例3:業務横断での情報共有
- 3.4.活用事例4:業務プロセスの見える化
- 3.5.活用事例5:データ入力の自動化
- 4. システム連携による効果拡大
- 4.1.主な連携対象システムと具体例
- 5. 電子化の落とし穴と回避策
- 5.1.落とし穴1:保存ルールが不明瞭
- 5.2.落とし穴2:情報の分断
- 6.まとめ
デジタルで作成された文書が「紙に戻ってしまう」のはなぜ?
現代の文書作成の主流は、PCやタブレットを使ったWord・Excel・PowerPointなどのデジタルツールです。紙に手書きだけで文書を作るケースは、今ではほとんど見られません。いわゆる「ボーンデジタル(最初から電子データとして作成される文書)」が当たり前になったのです。
それにもかかわらず、企業のオフィスには「電子化したものの活用されていないPDFファイル」があふれています。しかも、その多くは「もともとデジタルで作った文書を、わざわざ紙に印刷し、さらにそれをスキャンしてPDF化する」という、一見遠回りで非効率なプロセスによって生じています。つまり、こうしたPDFの大半は「紙しか存在しない書類」ではなく、「デジタルを紙に戻し、またデジタルに戻す」という二度手間の産物なのです。
ではなぜ、せっかくデジタルで作成された書類が紙に戻ってしまうのでしょうか。その理由として、次のような例が考えられます。
理由1: 押印・署名文化
日本では、多くのビジネスシーンにおいて、まだまだ印鑑の押印や直筆での署名が重視される傾向があります。確認・同意の意思表示や、文書が改ざんされていないこと、署名者が誰であるのか、などが一目でわかることから、印鑑や署名が法的証拠として強力な証拠力をもっており、デジタルデータのみでは不十分だと考えられているのです。
この文化が根強く残っているため、デジタルで作成した文書であっても最終的には紙に印刷し、押印・署名をしなければならないという状況が続いています。
理由2: 法令・監査による要求
法令や規制により紙書類での保存が求められる書類も、依然として一定数存在しています。こういった書類の場合、デジタルで作成、処理したとしても、保管のために紙への印刷が必須となってしまいます。
理由3: システム未整備
ワークフローシステムや電子署名システムのような、書類を電子的に処理できるシステムが整備されていない企業もいまだ少なくはありません。そのため、手作業のフローが残り、処理のために紙へ印刷しなければならないという非効率なケースもしばしば見られます。
理由4: 心理的要因
紙の書類を持つことによる「安心感」は、デジタル文書が紙に戻ってしまう最大の要因ともいえるでしょう。
紙での物理的な書類保管には「証拠として残せる」「改ざんされにくい」「データの誤削除やシステム障害による消失を避けられる」といった安心感があり、そのためデータがあっても紙での回覧や保管を継続するケースも少なくありません。
紙で運用されがちな文書の例
「ボーンデジタル」の文書が主流となった昨今ですが、それでも実務を運用していく過程で紙に再出力されて保管される書類は数多く存在します。そして、「紙を減らすためにとりあえず電子化したが、活用できていない」といった声が往々に聞かれるのも、これらの「デジタルから紙に戻ってしまった書類」です。
ここでは、業種ごとに紙で運用されがちな文書とその背景、さらに電子化後の具体的な活用例を整理してみましょう。
<業種別整理表>
業種 | 紙で運用されがちな文書 | 紙で運用される背景 | 電子化後の活用例 |
製造業 | 設計図面、品質記録、検査成績書、作業日報 など | CADやシステムで作成しても、承認や監査のために紙で出力 | 図面PDFを検索・共有し、設計変更や過去事例を迅速に参照 |
金融業 | 契約書、稟議書、顧客同意書 など | 押印・署名文化、法的保存義務 | 契約書PDFを顧客情報システムと連携し、問い合わせ対応を迅速化 |
医療・製薬 | 試験データ、症例報告書、監査用資料 など | 規制対応で紙の署名記録が必須 | 試験データPDFを検索可能にし、過去事例を効率的に参照 |
建設・不動産 | 図面、申請書、契約関連文書 など | 行政申請や確認のため紙提出が慣習 | 過去案件の図面PDFを検索可能にし、類似案件の参照やノウハウ活用に役立てる |
公共・教育 | 申請書、会議資料、報告書 など | 住民・利用者から紙提出、会議体で紙配付 | 申請書PDFをデータベース化し、横断検索で業務効率化 |
このように、どうしても紙での運用が為されがちな文書は様々な業種で存在します。これらに共通して特徴的なのは、「最初から紙でしか存在しない文書」よりも「もともとはデジタルで作成され、のちに運用上の理由で紙に再出力された文書」のほうが多いという点です。
こうした文書は、スペースセービングの目的で「とりあえずスキャンしてPDFを保管する」という対応を選択されることが多いのですが、そこに留まってしまうとその後の活用方法が著しく制限されてしまいます。
電子化したデータを効果的に活用していくためには、いかに業務に結びつけるかを考えることが重要です。
電子化したデータの5つの活用法
一度紙に戻ってしまった書類は、ただPDF化して保管するだけでは、活用の範囲が限られてしまいます。
電子化したデータは、業務に活かすことで初めて真価を発揮します。ここでは、電子化データと業務の連携例として、代表的な5つの活用方法を紹介します。
活用事例1:ナレッジとしての活用
過去の議事録、技術資料、企画書など、組織として価値のある知識を整理し、社員全体で共有する活用方法です。
観点 | 組織知の共有・蓄積 |
具体例 | 議事録、技術資料、企画書など |
手法 | PDF化した文書をOCRで文字データ化し、業務別・カテゴリ別に整理したうえで社内ポータルやナレッジベースと連携 |
効果 | 過去資料を再利用でき、意思決定のスピードや提案の質が向上 |
過去の資料を簡単に共有・再利用できるため、意思決定のスピード向上や提案の質が大きく改善されます。ただし、単なるPDFのままでは検索や活用が難しいので、OCRや分類などの整理を行うことで初めて「ナレッジ」として蓄積可能になります。
活用事例2:顧客対応の迅速化
過去の契約書や提案資料を検索可能にすることで、顧客対応を迅速化し、顧客満足度の向上を図る活用法です。
観点 | 顧客満足度の向上/対応スピードの短縮 |
具体例 | 過去の契約書、提案資料、問い合わせ履歴 |
手法 | 顧客IDや案件番号で紐づけ、CRMや契約書管理システムなどと連携して検索可能に |
効果 | 問い合わせ対応の際に即時参照でき、確認作業が短縮される |
顧客からの問い合わせなどタイムリーな対応が求められる場面でも、必要な情報を即時参照できるため、確認作業が短縮され、効率的な顧客対応が可能になります。顧客からの問い合わせに対する対応の速さは、企業の信頼性にも直結します。
活用事例3:業務横断での情報共有
設計書や販促資料などの情報を、部門間で相互にやりとりできるようにすることで、組織全体の連携を強化する活用方法です。
観点 | 部門間連携の強化 |
具体例 | 設計書、製品仕様書、販促資料など |
手法 | アクセス権限を設定したうえで部門間ポータルに展開 |
効果 | 部門間の情報格差が解消され、二重管理や資料の再作成を防止 |
部門間の情報共有が促進されることで部署間の分断が解消され、資料の二重作成や再作成などの無駄がなくなります。これにより、プロジェクトの進行がスムーズになり、組織全体の生産性向上に貢献します。
活用事例4:業務プロセスの見える化
契約関連文書、稟議資料などの文書を通じて、業務フロー全体を可視化し、改善を促す活用方法です。
観点 | 業務改善・内部統制 |
具体例 | 契約関連文書、稟議資料など |
手法 | 紙で回覧されていた契約書や稟議資料をPDF化し、処理日時や承認者などの情報を付加して文書管理システムに登録 |
効果 | 承認フローのボトルネックを把握し、内部統制やコンプライアンス強化にも寄与 |
承認フローの停滞箇所を把握できるため、迅速なプロセス改善につながります。さらに、承認履歴や処理日時を記録することで、内部統制が強化され、監査対応も容易になります。
活用事例5:データ入力の自動化
納品書や請求書といった定型文書の情報を活用し、手作業でのデータ入力をなくすことで業務効率を高める活用方法です。
観点 | 二重入力や手作業の削減 |
具体例 | 納品書、請求書などの定型文書 |
手法 | PDFからOCRやRPAで必要データを自動抽出し、ERPや会計システムに連携 |
効果 | 手入力が不要となり、ヒューマンエラーを削減、効率アップを実現 |
OCRやRPAを活用してPDFから必要なデータを自動抽出し、基幹システムと連携させることで、これまで手作業で行っていたデータ入力が不要になります。これにより、入力ミスなどのヒューマンエラーを大幅に削減し、業務の効率化と正確性の向上を同時に実現します。
このように、電子化した文書を業務と結びつけることで、「単なる保管データ」に過ぎなかったPDFファイルは「意思決定や日常業務を支える情報資産」へと変わります。さらにOCRやRPAなどの自動化技術を組み合わせることで、より一層の業務効率化を進めることも可能です。
システム連携による効果拡大
PDFを他のシステムとつなげることで、単なる保管データから「業務を支える情報資産」へと変わります。電子化した文書は、それ単体では「保管データ」にとどまりやすい傾向がありますが、他のシステムと組み合わせることで「業務を動かす情報資産」としての価値を最大限に引き出すことが可能になります。
主な連携対象システムと具体例
電子化の連携対象となりうるシステムは多岐にわたります。代表的なものとしては、業務全体の効率化を図るERP(基幹システム)、金銭管理の正確性を担保する会計システム、契約を効率的に管理しリスクを低減する契約管理システム、そして生産プロセスを最適化するための生産管理システムなどが挙げられます。
これらのシステム連携には様々なパターンがありますが、ここでは典型的な連携パターンとして、2つの例をご紹介します。
1.契約書PDF × 契約管理システム
契約書のPDFデータを契約管理システムに連携させることで、単に契約書を保管するだけでなく、契約に関する情報を一挙に可視化することが可能になります。契約情報の参照・閲覧・共有が容易になるのはもちろんのこと、契約期限の自動通知や、契約が有効/無効であるかの状況確認、関連する個別契約や稟議書、見積書、請求書データとの紐づけなど、契約に関わる一連の情報を可視化できます。これにより、PDFが単なる参照ファイルではなく、活用できる「情報資産」としての真価を発揮します。
具体的には、契約内容の参照や関連書類との突合せが容易になることで、重複入力や二度手間の確認作業が減り、ヒューマンエラーのリスクや確認にかかる工数を抑えられます。また、契約情報を一元的に管理することで、迅速な意思決定が可能となり、企業全体の効率的な業務運営を支えます。
2.設計図PDF × ERP(基幹システム)
製造業においては、設計図PDFをERPと連携させることで、部品マスターや購買情報と設計情報を一元的に管理できます。例えば、部品コードや製品番号から関連する設計図PDFをすぐに参照できるため、調達部門や生産計画部門が正しい図面をもとに迅速に業務を進められます。これにより、発注ミスや情報伝達の遅れによる手戻りを防ぎ、部門間の連携をスムーズにします。
こうして設計図PDFは、単なる図面の保管にとどまらず、調達・生産・品質保証を横断的に支える「業務基盤」として活用されます。
このように、PDFと他のシステムとつなげることで、業務における情報の活用度が飛躍的に高まります。単なる保管データとしての役割にとどまらず、業務プロセスを支える重要な要素として活用されていくのです。
電子化の落とし穴と回避策
電子化は、正しく活用すれば業務改善やDXにもつながる非常に有効な取り組みです。しかし一方で、注意しなければならない落とし穴も存在します。ここでは、代表的なトラブルとその対策について2つご紹介します。
落とし穴1:保存ルールが不明瞭
電子化によって物理的な書類の管理から解放される一方で、保存ルールが不明瞭な場合、「必要なデータが必要なタイミングで見つからない」という状況に陥る可能性があります。例えば、フォルダが無秩序に乱立していたり、ファイル名の付け方が統一されていなかったりする状況では、どこに何のデータがあるのかを特定することが困難になります。必要な情報を探し出すのに時間がかかり、電子化による利便性が損なわれてしまう場合があります。
この問題を回避するには、まずは全社的な保存ルールを策定することが重要です。具体的には、フォルダの階層構造と深さ、フォルダ名・ファイル名の命名規則の2点は、共通ルールを策定しておく必要があります。フォルダの階層構造は実務に即したものになるよう留意し、また、命名規則の策定時には大文字と小文字、西暦と和暦などの表記ゆれなども発生しないように、明確なルールを定めて統一しておきましょう。
これらの保存ルールや検索性向上の具体的なポイントについては、こちらの記事をご覧ください。
落とし穴2:情報の分断
もうひとつのよくある落とし穴は、情報が複数のストレージにばらばらに保存されることで起こる「情報の分断」です。複数のプラットフォームやストレージを利用することで情報管理が効率化するようにも思えますが、分散した情報を横断的に検索することができなければ、どのデータがどのストレージにあるのか分からなくなってしまいます。この「あるのに見つけられない」という状況が、業務効率の低下につながる原因となります。
この問題を解決するためには、複数のストレージを横断的に検索できるシステム「エンタープライズサーチ」を活用することが有効です。横断検索を活用することにより、複数のストレージに分散した情報を一元的に活用できるようになります。
また、生成AIと RAG(検索拡張生成)を活用した高度な検索機能を導入すれば、単なる情報検索にとどまらず、必要な情報により迅速かつ的確にアクセスできるようになります。
これらについての詳細や具体的なユースケースは、こちらのページで詳しくご紹介しています。
電子化されたデータは便利で効率的な業務運用を可能にする一方、運用方法を誤るとその利便性が損なわれ、「使えないデータ」と化してしまいます。データの価値を最大限に引き出せるよう、慎重に運用を管理しましょう。
まとめ
PDFファイルは、ただ保管しているだけでは価値を発揮できません。特に「デジタルで作成した文書をいったん紙に印刷し、それをスキャンしてPDF化する」という非効率な流れでは、電子化の効果は限定的です。
電子化したデータを業務と結びつければ、スピードや精度、品質の向上につながります。さらに、契約書や設計図などのデータをシステムと連携させれば、活用範囲が広がり、組織全体の効率化や情報活用の高度化にもつながります。検索性や情報分断といった課題も、保存ルールの徹底やエンタープライズサーチの導入などで回避可能です。
書類の電子化はゴールではなくスタートラインです。電子化したデータを「保管」で終わらせず、業務改善やDX推進にどう役立てるかを、次の一歩として検討してみてください。